展覧会展示模様
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Design: Katsuhiro KINOSHITA

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 「機械じかけの音楽」という言葉から何を連想するでしょうか。
 オルゴールやコンピュータ(DTM)では構造こそ違うものの、機械がその場で演奏するということでは「機械じかけ」と言えるでしょうし、CDやハードディスク、フラッシュメモリープレーヤーなどの音楽再生装置もそのように言えるかもしれません。しかし、今回私たちが用意した展覧会では、皆さんが想像するのと少々違った観点から「機械」と「音楽」との関係を考えてみたいと思います。
 音楽を機械で自動的に演奏させるというアイデアは、アリストテレスの著作中に既にみられます。古代ギリシャで考えられた様々な機械の構造は中近東地域に受け継がれ、中世になって再びヨーロッパに輸入されることで新たな展開をみせることになります。
 音階に合わせた鐘を使い、あるメロディーを決まった時間に演奏する教会の時計は、中世ヨーロッパにおける代表的な自動演奏楽器といえるでしょう。このようなものが多く作られるにいたった背景には、様々な音が美しい調べにのって奏でられる音楽と正確に時を刻む時計とが、いずれも調和と秩序をもって運行している宇宙を象徴するものとして存在していたからだと考えられます。
 巨大で複雑な構造をもつパイプオルガンが教会で欠かせないのも、そのような思想があるからでしょう。空気を入れ、鍵盤を押しさえすれば音が出るオルガンは、自動的に演奏させるのに適した楽器でもあります。17世紀にはすでに自動オルガンが発明され、小型の手回しオルガンは多くの地域で普及していくことになりました。また、このような演奏の自動化という流れは、18世紀半ばに演奏の記録と再生への関心を生み出します。この展覧会では、約230年前の演奏記録を元にしたコンピュータによる再生を行う予定です。
 産業革命後の近代になると、機械の存在は日常的になっていきます。正確にリズムを刻むメトロノーム等、音楽家にとっても機械は必要不可欠なものになったようです。20世紀になって、機械らしさが一部の若い作曲家たちに一つの美として認められるようになりました。機械音楽は宇宙の調和でもなく、人間の真似でもなく、ただ機械である事を表現するのが理想とされ、またそれが機械化された時代のふさわしい態度だと考えられました。I・ストラヴィンスキー、P・ヒンデミット、E・トッホなどがこの運動に参加し、その当時音楽再生の最高技術を代表していたロールピアノのための作品を残しました。戦後にはC・ナンカロウがロールピアノのために作曲し続けましたが、1980年代以来は新しい技術によってピアノとコンピュータを繋げる事が可能になり、多くの新しい作品が生まれました。この展覧会と関連イベントでは1920年代から現在まで自動ピアノのための代表的な作品とその創作活動が紹介されます。
 この展覧会の中心にはマーティン・リッチズ(Martin Riches, 1942-)の作品群があります。現代のベルリンに住むこのイギリス人アーティストは、多くの音楽機械作品(Music Machines)を発表しています。今回紹介する「Flute Playing Machineや「Serinette(鳥オルガン)」、「Clock V」などは、現代アートの作品とはいえ機械と音楽との歴史的な関係と無縁でなりたっているものではないことがわかるでしょう。
 機構は電子化されたとはいえ、現代においても自動演奏ピアノはポピュラーなものです。会期中には現代の自動演奏ピアノの演奏会も企画されています(協力:ヤマハ株式会社)。また、やはり本展で公開される本学の研究による自動作曲と自動伴奏のプログラムは、現代と未来における「音楽」と「機械(技術)」を考える上で非常に示唆に富むものとなるでしょう。
 現代社会に生きる私たちにとって、音楽はあまりに日常的なものです。この「音楽」というものが「機械」とどのような関係をもって存在しているのか、全く意識することなく暮らしています。しかし、そもそも「音楽」とは一体どのようなものだったのでしょうか。この展覧会は、そのような関心をもちつつ古代ギリシャから出発して歴史的変遷をたどり、現代そしてこれからの「音楽」について、それを奏でる装置としての「機械」との関係をキーワードにして展開していこうとする一つの試みなのです。

 museum

会期: 2007年10月20日(土)~12月2日(日)
会場: 東京大学 駒場博物館
住所: 〒153-8902 東京都目黒区駒場3-8-1

主催: 特別展「Musica ex Machina ―機械じかけの音楽―」実行委員会
    東京大学大学院総合文化研究科・教養学部 美術博物館
企画: 日本学術振興会科学研究費補助金研究プロジェクト
   「音楽文化における機械の役割-その歴史・現状に関する多面的分析と展望」
         (研究代表者:ヘルマン・ゴチェフスキ東京大学准教授)
共催: 東京大学教養学部附属 教養教育開発機構 寄付研究部門
協力: 国立音楽大学 楽器資料館、財団法人 多摩文化振興財団(パルテノン多摩
    多摩美術大学芸術学部芸術学科、Berlinische Galerie (Berlin, Germany),
    Augustinermuseum (Freiburg, Germany),
   Paul Sacher Stiftung (Basel, Switzerland)
協賛: 西濃シェンカー株式会社、TÜV SÜD Japan、ヤマハ株式会社
    国際交流基金

 

Events

Gallery_Talk

 

 

 

Workshop

講師:マーティン・リッチズ Martin Riches

駒場博物館の秋の展覧会『Musica ex Machina —機械じかけの音楽—』のスペシャル・ゲストとして来日する機械芸術家マーティン・リッチズ(Martin Riches)は特別講義として大学院生向けのワークショップを開きます。ワークショップでは主に展覧される音楽マシン(Serinette(鳥オルガン)、Flute Playing Machineなど)のために実際に作品を作る指導を受けられます。ワークショップの最後には学生の作品の発表会を行います。(作曲の経験がなくても参加できます。)

マーティン・リッチズはドイツ・ベルリンに暮らしているイギリス人芸術家です。かれの作品の変わらぬテーマは「機械」ですが、視覚と聴覚による鑑賞が一体になることが特徴です。その作品には「音楽機械」(music machines)が多く、その一部には作曲家と一緒に開発したものもあります。今回の展覧会には日本の作曲家三輪眞弘との新しい共同作品も紹介されます。

なお東大の大学院生はこのワークショップを総合文化研究科超域文化科学専攻の授業として履修でき、単位になります。参加者の学生数を15人以下としますが、許すかぎり他大学の学生の参加を認める予定です。しかし、希望者多数の場合、選考を行います。

・ 大学院生対象ワークショップ・スケジュール
第1回 10月12日(金)18:00〜20:00 ガイダンス
第2回 10月27日(土)10:00〜12:00, 14:00〜18:00
第3回 11月17日(土)10:00〜12:00, 14:00〜18:00
第4回 12月 1日(土)18:00〜20:00 公開プレゼンテーション
第5回 12月 5日(水)18:00〜20:00
会場:第1回〜第4回:駒場博物館、第5回:ファカルティハウス)

 

 

 

Player_Piano_Concert

Program プログラム

P.ヒンデミット、E.トッホ、C.ナンカロー、山本純ノ介、三輪眞弘、
古川聖、H.ゴチェフスキの作品の自動演奏。

 

vorne

Design: Ryohei KOJIMA

hinter

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Machines_and_Music  

■シンポジウム1
12月1日(土)午後1時~4時 東京大学駒場キャンパス/学際交流ホール
「音楽文化史における機械の役割」
【パネリスト】
岡田暁生(京都大学)
安田寛(奈良教育大学)
ゼバスツィアン・クロッツ(ライプツィヒ大学)
ヘルマン・ゴチェフスキ(東京大学)
渡辺裕(司会)(東京大学)
通訳付き

■シンポジウム2
12月2日(日)午後1時~4時 東京大学駒場キャンパス/18号館ホール
「20世紀の音楽における機械の可能性」
【パネリスト】
近藤譲(お茶の水女子大学)
高橋雄造(東京農工大学)
三輪眞弘(情報科学芸術大学院大学)
呉姫淑(ソウル大学)
長木誠司(司会)(東京大学)
通訳付き

主催:
日本学術振興会科学研究費補助金
「音楽文化における機械の役割―その歴史・現状に関する多面的分析と展望」
研究グループ
共催:
日本音楽学会関東支部

concert_flyer

Design: Ryohei KOJIMA

concert_flyer_hinter

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Memorial_Concert

マーティン・リッチズの音楽機械
Martin Riches’ Music Machines

フルート:木ノ脇道元
Flute: Kinowaki Dōgen

ピアノ:松山元、松山優香
Piano: Matsuyama Gen and Matsuyama Yuka

ソプラノ:小林菜美
Soprano: Kobayashi Nami

プログラム:
第一部:駒場博物館1F にて2007年12月1日(土)18時開始
First Part: Komaba Museum, First Floor, 18:00
・大学院生のワークショップの発表会(音楽機械のための作品)
Presentation of the Workshop for Graduate Students (Works for Music Machines)
・ショーン・トウザ『オール・チェンジ』フルート と
M. リッチズのフルート・プレイイング・マシンのため
Schaun Tozer: All Change for Flute and Martin Riches’ Flute Playing Machine

第二部:駒場コミュニケーション・プラザ北館2F
音楽実習室にて2007年12月1日(土)19時開始
Second Part: Komaba Communication Plaza 2F Music Practice Room , 19:00
・フランツ・シューベルト(1797-1828)『糸を紡ぐグレートヒェン』ソプラノとピアノ
Franz Schubert: Gretchen am Spinnrade (Sopran, Klavier)
・吉松 隆(1953年生)『デジタルバード組曲』フルートとピアノのため
Yoshimatsu Takashi: Digital Bird Suite for Flute and Piano
・レオ・オルンスタイン(ca. 1893-2002)『飛行機の中での自殺』ピアノのため
Leo Ornstein: Suicide in an Airplane for Piano
・石川義一(1887-1962)『渦巻』ピアノのため(1933)
Ishikawa Yoshikazu: Uzumaki for Piano          他

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