雑音楽器イントナルモーリ

INTONARUMORI

 未来派に属する画家であったルイージ・ルッソロ(1885-1947 年)が、1913 年におこなわれたパフォーマンス「未来派の夕べ」の折に霊感を受けて起草したのが『雑音芸術未来派宣言』である。そこでは機械の氾濫する都市に生きる人間の感覚に近づくため、雑音による芸術によって音楽の概念を広げようと提案されている。宣言の実践としてルッソロは、助手のピアッティと共に雑音楽器イントナルモーリを制作した。音の種類によって名称が変わり(未来派が親しんだ擬音を多用)、その数は1921 年には27 種類に達している。

ウルラトーレUlulatore(うなり楽器)、ロンバトーレRombatore(とどろき楽器)、クレピタトーレCrepitatore(パチパチ楽器)、ストロピッチャトーレStropicciatore(こすり楽器)、スコッピアトーレScoppiatore(爆発音楽器)、ゴルゴリアトーレGorgogliatore(ゴロゴロ楽器)、ロンザトーレRonzatore(ブンブン楽器)、シビラトーレSibilatore(ヒューヒュー楽器)などである。さらにルッソロは1920 年代に入ってからルモラルモニオRumorarmonio という電動の鍵盤楽器を考案・制作している。それゆえに今日ではルッソロを電子音楽の祖とみなす向きもある。

 それぞれのイントナルモーリの内部のメカニズムは異なるが(モーターを使っている場合もあり)、背後のクランクを回して音を作り、上部のレバーによって音程を調節する。今回は、1914 年にミラノで発行された特許証やテクニカル・スケッチなどをもとに、秋山邦晴氏の監修によって1986 年に再現された8 台のイントナルモーリのうち、クレピタトーレ(パチパチ楽器)とロンザトーレ(ブンブン楽器、モーター付)を展示する。1910 年代の当時どのような演奏がなされたか検証するのは難しいが、これら2 台は実際に音を発する。

 イントナルモーリの出陳に快諾くださった多摩美術大学芸術学科にこころより感謝を申し上げる。

 

 

Hideyuki Doi