DN・ヴィンケルの『コンポーニウム』

Diederich Nicolaus Winkel’s Componium

 

 メトロノームの発明者でもあるDN・ヴィンケルは1821年に『コンポニウム』という作曲機械を発明した(二階展示室の入り口手前の展示ケース参照)。楽器としてはオーケストリオンという、様々な楽器を備えた自動オルガンだが、従来の自動楽器と違って曲が一つのシリンダーに含まれているのではなく、二つのシリンダーに分けて記録されている。他の多くのシリンダー楽器では一つのシリンダーに八曲ほど別々の音楽が収録されているが、コンポーニウムでは同じ曲の八つのヴァリエーションが二小節ずつ交代ごうたいに二つのシリンダーに収録されています。一つのシリンダーが演奏している間にもう一つのシリンダーがランダムで次の二小節の八つのヴァージョンのどれかにシフトする。一曲の演奏では38回8つのヴァリエーションの中の一つをランダムで選ぶので、結果として同じ曲の

83820,769,187,434,139,310,514,121,985,316,880,384

という数えきれない数のヴァリエーションからランダムで一つを選んで演奏する、ということになる。二度と同じ曲を演奏することがないと考えてよいでしょう。

 コンポーニウムの実物は現在にも残って、ブリュッセル楽器博物館に所蔵されているが、故障して全く動かない。動いている時の録音なども存在していない。しかし機械の構造とシリンダーに収録されている音楽は1980年代にPhilippe John van Tiggelenに分析され、その著書Componium. The Mechanical Musical ImprovisorLouvain-la-Neuve 1987)に発表されている。その研究に基づいて現在コンピューター・シミュレーションが製作中である。展覧会中に完成する予定である。

 

 

 

H. G.