担当教官:猪口 弘之
講義題目:書簡論(現代のドイツ語文化圏に限定して)
現代人にとって、手紙(ラブレターから、はては絶交状に至るまで)を書いたり読んだりする機会は、ますます減少しつつある。もちろん、ファックスや電子メールに姿を変えて生き延びてはいくだろうが、双方向の通信をてっとりばやく可能にする電話等が存在する以上、手書きの手紙の黄金時代がもどるとは想像し難い。
しかしかつては、生涯に数千通にも及ぶ(万に達する場合すらある)書簡を書き、その内容も単なる日常の用件の個人的伝達にとどまらない意義をもつものが多かったため、かなりのものが保存され、書簡集が編まれる――といった人物も決して稀ではなかった(偉大な人物どうしの往復書簡集にも、重要なものが少なくない)
個人あての私的通信という限定を超えて書かれた公開書簡には、まさに歴史的な衝撃を与えたものもあり、また書簡というスタイルをとって書かれた小説・評論・告白・宣言等も、はるか昔から、かつ全世界的に存在してきた。
便宜上、十九世紀後半以降のドイツ語文化圏に限定してさえ、これら広義の書簡のうち、わずかではあれ、それらの一部をドイツ語のテクストとして読みつつ、それらの書簡の歴史的意味を論じ、さらに一般的に書簡の意義なり本質なりについても検討してみたい。
なお、夏・冬学期とも、具体的な対象や方法の詳細については、参加者との協議の上で決定する。