担当教官:竹内 信夫
講義題目:マラルメ『書簡集』を精読する
マラルメは1871年の末にパリに移住する。そのときには既に、第二帝政の都市政策がパリを今までにない全く新しい景観都市として生まれ変わらせていた。さらに、帝政の崩壊、普仏戦争の敗戦、第三共和制の成立という社会的混乱を経たパリは、敗戦にも拘わらず、というよりも敗戦の故に、前代未聞の文化的戦略を選択する。つまり、あらゆる面において〈近代〉生活の演出者となり、展示場になろうという選択である。それは、学術・芸術・都市風俗の側面において特に顕著に見られる。その結果として、70年台以降世紀末に至るまで、新装成ったパリは、19世紀近代ヨーロッパ諸芸術の交差する拠点都市へと変貌し、近代諸芸術・諸ジャンルの生成変容する巨大な坩堝となる。
70年代以降の以降のマラルメは、そのようなパリの変貌と文化的戦略に極めて鋭敏に反応する。そのことは彼の作品においてよりも、むしろ彼の書翰において、より鮮明に、またより精密に読み取ることができる。ある意味では単調な60年代書翰に比べれば、この時期の書翰は、単に数の増大というだけでなく、宛先の多様化・多重化によってもっともよく特徴づけられる。マラルメという人物は、その意味で、この時代に複雑さを増すヨーロッパ的〈知〉のネットワークの重要なハブの一つと考えることができる。
本演習では、以上のような基本認識に基づいて、パリ移住以降のマラルメ書翰を、フランス語版『書簡集』によって、精読し、分析する。フランス語の読解力は不可欠であるが、筑摩版『マラルメ全集』の「書翰I」(既刊)と「書翰II」(近刊)を用いて、フランス語未修者も参加することができる。
授業計画および授業の進め方については、開講時に指示する。受講希望者は開講初日の授業に必ず出席すること。使用テクストは、Stéphane Mallarmé : Correspondance I-XI, Gallmard, 1959-1985 を主とし、上記筑摩書房『全集』版を副とする。