ジャンル交渉論I(夏・冬学期)

担当教官:ロバート キャンベル
講義題目:「つづく」文学の研究

明治5年に始まる日本の新聞創刊ラッシュは、新政府の法令布告と相場情報と、「雑報」に対する読者の飽くなき関心によって支えられていた。「雑報」とは、諸国の「説話《はなし》」(『読売新聞』)であり、たとえば孝行・貞節など表彰のネタから、犯罪聞込み、裁判沙汰、役所スキャンダル、艶話など、今でいう三面記事に似通ったものをいう。8年ごろ、雑報が一日の紙面に入りきれず、二日、三日とまたがるものが登場し、「続き物」として流行した。このように、ニュースは物語化し、そして分断される。単行本を産みだし、やがて翻訳・翻案、戦争報道、時代物へと領域を広げてゆくが、総じて江戸文学に負うところ多く、また近代小説の誕生と展開にも深く関わっている。19年、『読売新聞』が「小説欄」を設けるまでの約10年間、文学が新聞とどう渡り合っていったかを実証したい。
講義は、夏と冬で形式を変えようと思う。夏はできるだけたくさんの「続き物」を講読し、冬には、参加者各自に発表してもらう。資料はプリントで配付。開講時までに、本田康雄『新聞小説の誕生』(平凡社1998)を通読すること。