神話と文化II

担当教員:岡部 雄三
講義題目:深淵は深淵を呼ぶ――タウラー『ドイツ語説教』研究

14世紀にライン河流域において活躍したドミニコ会修道士ヨハネス・タウラー(ca.1300-61)は、宗教改革期にそのドイツ語説教の主要なものが原典およびラテン語訳の形で刊行されて広く普及し、近世ヨーロッパの成立に決定的な影響を及ぼした思想家のひとりである。キリスト教の精髄を分かりやすく解き明かした彼の説教には、魂の深淵をどこまでも覗き込み、名づけえぬ神とは何かを問いつづけ、人間存在の本質に思いを馳せ、意志による自己形成の新たな理解の戸を叩き、異端の問題に心を砕いた、偉大でユニークな思想の数々が縦横に論じられている。これらの言葉に漲る躍動、斬新な着想、直観と反省に裏打ちされた創造的思考の深さ、詩情あふれる文学性ともあいまって、彼の説教は驚くほど現代と響きあう数多くの問題を提起している。これらの説教を読み解きながら、神とは何か、人間とは何か、魂の中における神の子の誕生の不思議、日常生活における宗教的実践の意義、ニヒリズム等のテーマについて検討する。
なお、本演習は、キリスト教入門をも兼ねるものである。受講希望者は、最初の授業に必ず出席すること。
テキストは、田島照久訳『タウラー説教集』(『ドイツ神秘主義叢書』第4巻・創文社)を用い、随時プリントを配布する。