文化コンプレクシティ演習V

担当教員:井上 健
講義題目(夏学期):近代日本の「幻想」短篇を読む

大正文学を中心とした日本近代文学に、テーマ研究、ジャンル研究の立場から、《幻想文学》という視点によるアプローチを試みたい。まず、ツヴェタン・トドロフ他による《幻想文学》ジャンルの定義の検討から始めて、必要に応じてその修正を試みる。次に、その結果を、大正期を中心とする日本近代文学に適用し、それがこの時期の日本文学の特性を解明するのにどこまで有効であるかどうかを検証する。さらに、これら日本《幻想文学》の系譜を、随時、西欧近代の《幻想文学》のそれと読み比べることによって、西欧的な枠組みでは律しきれない、「日本的幻想」の構図のごときものを抽出することができればと考える。

講義題目(冬学期):小説の「翻訳可能性」について考える

翻訳とは言語・文化を異にする「他者」を、自らの言語、文化の構造の内に引き入れて、理解、解釈しようとする変換行為の総称である。本講義ではまず、 Walter Benjamin以降の主要な翻訳理論を紹介し、翻訳とは何を翻訳するのか、いかなるプロセスを経るのか、翻訳可能なもの、翻訳不可能なものとは何か、など翻訳をめぐる諸問題を再考するところから出発する。そこで確認された知見を踏まえて、アメリカを中心とする西欧近代の小説が日本語にいかに翻訳されてきたか、それは日本語表現の可能性をいかに押し広げ、文体・ジャンルの発生を促していったのか、そこにおいては、何が翻訳可能で、何が翻訳不可能であったのかについて考えてみたい。