比較思想論Ⅰ(日本の思想)

担当教員:梶谷 真司
講義題目:【危機意識と伝統回帰】

 何らかの会的危機に直面すると、しばしば自らの伝統へ回帰することで解決が図られる。今日の日本でも、環境、医療、教育、家族、道徳など、様々な領域で危機が叫ばれるが、「古き良き伝統」が持ち出され、その復活が唱えられる。ここで注意すべきことは、そのような場合にもち出される「伝統」は、たんなる過去やその継続ではなく、当の文化が本来の拠り所とすべき規範だということである。しかもそれは、その時々の現実に対処するための指針を提示するがゆえに、歴史の中で連綿と続く不変性をもつわけではなく、時代ごとの状況に応じて異なった、新しい形をとることが多い。では、そのような「伝統」は、どのようにして形成されるのか。またそこには、実際にどの程度の一貫性、整合性があるのか。さらに、そのきっかけとなる「危機」とはいったい何か。それはどのように見出され、どれくらい「問題」なのか。この授業では、こうした観点から、「危機」と「伝統」について、様々なテーマを取り上げ、議論・考察していく

現代の社会的に「危機」だとされていること、それに対して唱えられる「伝統」への回帰について、そうした語りの生成のプロセス、背景、意図、正当性など、様々な角度から検討し、物事を一般に言われていることとは別の側面から考察することに努める。合わせて、問題の発見、設定、議論の構成の方法について訓練する。