比較芸術論演習

担当教員:今橋 映子
講義題目:近代日本美術とパリーー岩村透「巴里の美術学生」を読む

明治大正期の美術批評家・岩村透の代表的著作「巴里の美術学生」を徹底的に読む。
日本人画学生たちのパリ留学への火を付けた、当時のベストセラーだが、現在、岩村透という存在同様、その重要性がなかなか認知されていない。
この授業では、美術批評のテクストを読む、という営為が何であるかのかを自覚的に意識しながら、複数の角度からこれを読み込むことを主眼とする。

1)授業で使用するテクストは、国立国会図書館が公開しているデジタル版とする。
2)このテクストは元来、日刊新聞『二六新報』に掲載されており、その媒体の性格も含め、初出に戻って、合わせ検討する。
3)刊本『巴里の美術学生』には他に二本の美術評論が収録されており、それも同時に読んで、このベストセラーが当時美術界に持っていた意味を再確認する。
4)「巴里の美術学生」に関する参考文献は数多くないが、それを精緻に検討する。
5)このテクストは単なる随筆ではなく、パリ案内小説というアメリカ文学に流行ったスタイルの影響を受けているため、比較文学的考察を加える。
6)最終的に、明治大正期近代美術とパリとの関係を、大局的に考えるよすがとしたい。

このテクストの背景には、単なる美術界の状況だけでなく、同時代の政治や文学の状況にもつながる深いコンテクストがあることを、参加者は認識することになろう。

授業参加には、特別な条件を必要としない(近代美術や岩村透についての予備知識を必要としない)。文学、美術、政治、歴史等多様な分野に興味のもてる人、また一つのテクストを徹底的に読み込むという作業に積極的に参加できる人を期待する。