私自身が、比較文学比較文化研究室(大学院)の出身であり、比較文学も比較芸術も、自分が一生をかけてやるべき甲斐のある学問分野であると信じて、進んできました。
その一番面白いところは、ある文学作品、文化現象、芸術作品などを、新しい視野と豊かな感受性で捉え直し、歴史的視点を大切にしながらダイナミックに記述する学問スタイルにあります。
私自身は学部時代にフランス文学を専攻しました。その後大学院で、「日本人がなぜ、異国の都市パリに憧れねばならなかったのか」という疑問からスタートして、「日本人のパリ研究」をまとめ、そこから、異文化理解の問題、都市論、写真表象と都市など・・・の問題へ発展してきました。多分こうした、かなり漠然とした広いテーマは、従来型の文学あるいは美術史の枠内ではとても不可能だった、と今でも思います。
このコースでは、文学と芸術の双方に興味を持ち、それをきちんとした読解法を身につけつつ、広い視野から論じようという意欲ある方の期待に、十分応えるプログラムを用意しました。ひとつの文学作品、美術作品をまずは共にじっくり、ゆっくり、そして鋭利に読み解いていきましょう。そのためには、図書館の奥深いところ、未知の美術館や展覧会に、積極的に出かけることも必要でしょう。何よりもそうしたかけがえのない体験を学生時代にすることこそが、その後の人生の糧となると信じます。
その上で、自分の感じたこと、考えたことが、いかに他の人に伝わるのかーーそれをとことん試し、議論する場を、授業の中で提供したいと思います。
私自身、今までの研究人生の中で、それまでは思いもしなかった場所——パリ、ロンドン、ブリュッセル、ニューヨーク、木曽の山奥や高知県突端の岬などーーに行き、そこで大切な「人との縁」を結び、だからこそ、そうした場所に連れて行ってくれた契機となった過去の作品や芸術家たちに、いつも「ありがとう」という気持ちになります。
比較研究室はすでに長い歴史をもち、旧シニアコースも含めて、先輩も沢山います。留学生とも沢山出会えます。普段の交流も盛んで、研究室の雰囲気は闊達です。
文学芸術の新しい研究を、地道に志す方を、心から歓迎します。 |