私たち東京大学大学院比較文学比較文化研究室では、このたびシンポジウム「知の共有財産・展覧会カタログ ──制作から批評まで」を、美術博物館および日仏美術学会と共催で行うことになりました。
このシンポジウムは、共著『展覧会カタログの愉しみ』(今橋映子編著、東京大学出版会)を受け、学術的に発展討議させるものです。
展覧会カタログは、わが国においては著作権法の関係上、観覧者以外には市販できず、いわば「展覧会グッズ」のような地位にあります。
従って美術作品の複製を、原則的には著作者の許諾なくできるために、オールカラーであっても手頃な値段で販売できる反面、欧米などとは異なってISBNの付いた一般書籍として、多くは流通していないのが現状です。
従って一般の人々には目に触れにくく、残念ながら新聞・雑誌の書評欄で取り上げられることも多くありません。
しかし近年、企画の新鮮さ、学術的探求の深さ、一冊の〈本〉としての楽しさ──を共に兼ね備えたカタログが、日本でも相次いで発行され、「隠れたベストセラー」も目につくようになりました。
美術に関する「ハコモノ」行政の不備が指摘されて久しいですが、カタログの存在は、まさにその「ソフト」の部分の充実に他ならないでしょう。
東大比較文学会の学会誌『比較文学研究』では、1999年(同誌第74号)より年2回継続的に、「展覧会&カタログ評」のコーナーを新設、現在まで二十本以上のカタログ評を公表してきました。
美術史の専門ではない私たちは、あえて、評価の定まった一画家の回顧展のようなものでなく、文化交流史、異文化表象、アジア論、諸芸術間交渉――といった斬り口の展覧会とカタログ批評を心がけています。
近刊本『展覧会カタログの愉しみ』は、雑誌からの転載批評20本の他、専門の異なる分野で活躍中の著者たちに積極的に寄稿を依頼し、多面的にカタログの現在を浮かび上がらせるよう試みました。
そこでは単に「書評」集といった性格になるのを避けるため、ジャンルとしては漫画、映画から和菓子展まで、注目の話題をコラム的に提供する一方、〈本〉と いう形態にこだわったデザイン性の高いカタログ、初心者や子供に向けた良質な入門編カタログまで、幅広くカバーする予定です。
そして今回のシンポジウムではその成果を受け、美術史、美術情報学、比較文学・比較文化の研究者が、美術館などの現場と対話しつつ、21世紀のカタログのあり方、あるいはカタログ批評の可能性について語りあいます。
多数の皆さまのご参加をお待ちしております。
本シンポジウム開催責任者
東京大学大学院・助教授
今橋 映子