1937年に28才の若さで世を去った音楽家、貴志康一。その短い人生の間に、彼は若者らしい好奇心をむき出しにして、西洋音楽や映画の世界に飛び込んだ。
関西の大富豪の家に生まれ育った貴志は、他の多くの日本人留学生のようにベルリンに留学し、日本人として初めてヴァイオリンの銘器ストラディヴァリウスを所有し、ヴァイオリンの研鑽に励んだ。ナチズムが台頭してきた1930年代には、彼の興味は楽器演奏のみならず、作曲や指揮、映画出演と製作へと広がっていく。そして遂にはベルリンフィルに指揮者としてデビューし、独ウーファー社による日本紹介のための文化映画も製作した。
彼の幅広い活動の記録から、私たちは何を読み取り、何を学ぶことができるのか。貴志の生誕100周年に当たる今年、東京大学比較文学比較文化研究室および表象文化論研究室所属の若手研究者有志によって、音楽、思想、映画、教育など、さまざまな観点から貴志の足跡の調査が行われた。今回のシンポジウムではその成果の発表を通じて、日本音楽・映画史に貴志を正確に位置づけることを試みる。また一音楽家の研究が、歴史研究としての価値をもなすことを提示したい。
東京大学大学院所属の大学院生については、所属先として研究室名のみを記載する。
生誕100周年コンサート(11/6)
貴志康一の歌曲とヴァイオリン作品に加えて、貴志と交流のあった音楽家たちの作品も取り上げる。貴志同様にベルリンに留学した作曲家・指揮者の山田耕筰、ベルリン時代に交流のあったP. ヒンデミット、貴志の作曲の師で今回が日本初演となるE. モーリッツらの作品を演奏する。
ピアニストの都合により、貴志康一とE. モーリッツのヴァイオリン・ソナタの演奏者が変更となりました。演奏会間際に急遽出演をお引き受けくださいました松山優香、松山元両氏に深く感謝の意を表します。(貴志プロジェクトスタッフ一同、2009年11月4日追記)
プレトーク(18:00~18:50)
梶野絵奈(比較文学比較文化博士課程)
子安ゆかり(表象文化論博士課程)
コンサート(19:00~21:00)
1 |
貴志 康一(編曲) |
さくら さくら(日本古謡) |
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山田 耕筰(編曲) |
中国地方の子守歌(日本民謡) |
2 |
Edvard Moritz |
Sonata Violin and Piano Op. 84 |
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(E. モーリッツ |
ヴァイオリンソナタ 作品84 第一楽章) |
3 |
山田 耕筰 |
がんばれの歌(詞:畑 耕一) |
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上海特急(詞:北原 白秋) |
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園の夢(詞:寺下 辰夫) |
4 |
貴志 康一 |
Sonata for Violin and Piano |
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(ヴァイオリンソナタ 第一楽章) |
(休憩) |
5 |
諸井 三郎 |
Sonate für Violine und Klavier Nr. II Op. 25 |
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(ヴァイオリンソナタ 第2番 作品25 第一楽章) |
6 |
貴志 康一 |
八重桜(詞:伊勢大輔) |
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風雅小唄(詞:貴志 康一) |
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花売娘(詞:貴志 康一) |
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赤いかんざし(詞:貴志 康一) |
7 |
Paul Hindemith |
Fragment (Text: Friedrich Hölderlin) |
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(P. ヒンデミット |
断章(詞:F. ヘルダーリン)) |
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Abendphantasie (Text: Friedrich Hölderlin) |
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(夕べの幻想(詞:F. ヘルダーリン)) |
8 |
貴志 康一 |
漁師の唄 |
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龍 |
出演: |
蔵野蘭子 | (ソプラノ) | 1, 3, 6, 7 |
松山優香 | (ピアノ) | 2 |
松山元 | (ピアノ) | 4 |
梶野絵奈 | (ヴァイオリン) | 2, 4, 5, 8 |
子安ゆかり | (ピアノ) | 1, 3, 5~8 |
※ピアニストの都合により、一部曲目の演奏者が変更となりました。 |
演奏者および演目は2009年11月4日現在の予定です。演奏者の都合により変更になる場合がございます。正式な演目及び演奏順はコンサート当日に発表いたします。
シンポジウム(11/7)
第1部(10:00~12:00)
学生発表
10:00~10:40 | 伊藤由紀(比較文学比較文化博士課程) |
| 「「天才」を産む装置――大正期富裕市民層の家庭文化」 |
10:40~11:20 | 岡野宏(比較文学比較文化修士課程) |
| 「同時代の音楽状況における貴志康一の音楽統制論および指揮活動の社会的意味」 |
11:20~12:00 | 堀内彩虹(表象文化論修士課程) |
| 「「作曲家」としての貴志康一 ―その創作と学びの過程についての一考察」 |
司会:山上揚平(表象文化論博士課程単位取得満期退学)
(昼食休憩 1時間)
第2部(13:00~15:20)
学生発表
13:00~13:40 | 山上揚平(表象文化論博士課程単位取得満期退学) |
| 「帰朝者の語る1930年代のベルリンとドイツ楽壇~貴志康一と同時代渡欧者の伝えたドイツのイメージ」 |
インタビュー
13:40~14:10 | 松本善三(元・新響ヴァイオリニスト) |
| 「明治生まれ、私の提琴人生」 |
| 聞き手:中村仁(表象文化論博士課程) |
映画上映
14:10~14:40 | 『鏡』(1933年、ウーファ製作、貴志康一監督) |
| | 16分、白黒、トーキー(モノラル)、使用言語=ドイツ語、字幕=日本語 |
| 『春』(1933年、貴志学術映画研究所製作、貴志康一監督) |
| | 13分、白黒、トーキー(モノラル)、使用言語=ドイツ語、字幕=日本語 |
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学生発表
14:40~15:20 | 白井史人(表象文化論博士課程) |
| 「日本「文化」と日本「人」、『鏡(1933)』から『新しき土(1937)』へ~1930年代の文化映画/劇映画の一断面」 |
司会:伊藤由紀(比較文学比較文化博士課程)
(休憩 10分間)
第3部(15:30~18:00)
パネルディスカッション
パネリスト: |
竹峰義和(日本大学) |
| 「欲望のコロニアルな対象:ウーファ文化映画としての貴志康一『鏡』(1933)」 |
中村仁(表象文化論博士課程) |
| 「ベルリンの日本人・貴志康一」 |
片山杜秀(慶應義塾大学) |
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「貴志康一とは誰か? ―日本近代洋楽史におけるそのポジショニングをめぐって―」 |
司会:長木誠司(東京大学)