2008年10月3日に「教養の基盤――類書を学び、類書で学ぶ」と題する「東アジア古典学としての上代文学の構築」ワークショップがコロンビア大学にて開催されました。コロンビア大学、イェール大学、プリンストン大学、カリフォルニア大学ロサンゼルス校、そしてハイデルベルグ大学の教員と大学院生が参加し、東京大学の神野志隆光教授と齋藤希史教授による刺激的で有益な発表から多くのことを学ぶことができました。お二人の発表は、コロンビア大学と東京大学の大学院生を相手に模擬授業を行ない、それぞれの授業の後に傍聴者が質問や意見を述べるという、画期的な方式が採用されました。
神野志教授ご担当の部分は、あの有名な「調べる授業」をかたどったものでした。『古今和歌集』所収の有名な紀貫之の歌に見られる「夜の錦」ということばの意味を調べるにあたって、一次資料と二次資料をめまぐるしく提示して学生と傍聴者を指導してくださいました。『蒙求』や『和漢朗詠集』といった幼学書とその古注、そして類書に取り込まれた古典作品の引用文(必ずしも原典から採られたものではないもの)のネットワークの重要性を理解することなく、日本古典文学を研究することは不可能だということをはっきりと明らかにものでした。
齋藤教授は類書の歴史と構造を学生と傍聴者に教示し、そして唐代の類書『藝文類聚』の一節を例にとり、原文を精読することによっていかに多くのことを学ぶことができるか、実際の読解力だけでなく文化史と思想史に対する全般的な理解を深めることができるかを示してくださいました。
この二つの発表によって、前近代日本とより広い東アジア文化との関係についての新しい見地と、研究に際して利用できる大変貴重な具体的な技術をも参加者は得ることができました。このワークショップは東アジアにおける教育の歴史を示しただけではなく、これに参加する幸運に恵まれた私たちにとっても非常に教育的な経験でした。神野志教授と齋藤教授が再びコロンビア大学にお越しになることを願っています。
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