I-4. |
漢字による日本語表記の方法 |
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正格の漢文(中国語訳)← * →仮名書き(日本語の形をそのまま借音表記する) |
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*いわゆる変体漢文(和化漢文、擬似漢文) |
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漢字を使用することによる中国語文と日本語文との間のさまざまの変異体 |
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和習の漢文、漢字仮名交じり/日本書紀と古事記あるいは風土記 |
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~実はこの程度にしか分けえない。 |
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また、この分け方は、左が文体(ことば)の問題、右が表記体(文字)の問題、であり、その、出発から矛盾をはらんでいる。 |
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漢字の用法による分類原理 |
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①漢字の表語用法を文章表記の基本とする |
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②漢字の表音用法を文章表記の基本とする |
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~全ての文章を①と②との中間的なものとして個々に位置づける |
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ここでは「文体」とい概念は一応保留すべき |
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「表記体の変換」ということの可能性を待って「文体」を考える |
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古代表記体の分類(沖森卓也『日本古代の表記と文体』) |
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漢文 |
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略体和文(いわゆる変体漢文) |
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和文 |
非略体和文 |
宣命体 |
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漢字仮名交じり |
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仮名文 |
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~沖森は、書かれている言語の問題として、「漢文」と「和文」との二つにまず分け、表記体を和文のみの問題として下位分類をほどこす。すっきりしているが、「漢文」と「和文」の境界、「部分的宣命書き」の位置づけ、が問題となろう |
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ある文体がひとつの表記体しか選択できない場合、そこには文体と表記体の不即不離の関係があることになる。そこでは、文体ないし表記体を分けて考えることはできない。毛利正守のいう「倭文体」が表記体と文体とを区別しないように見えるのは、そのことによるか? |
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しかしながら、古代の漢字専用時代においても、先に見た、漢文と仮名書きとの対立は、「表記体の変換」ないし「表記体の選択」を可能にする。それは、文体のことなりとは区別すべきものである。 |
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「表記体の変換」とは、基本的には、三宝絵の3伝本や、平家物語の諸本による表記体の異なりを許容する現象をいう。しかし、万葉集歌においても、仮名で書くか訓字で書くかの選択が可能な場合、歌ないし歌集を、一つの作品、一つの文章としてみた場合、これも「表記体の変換」といえよう。 |
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①人麻呂歌集 |
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ア、巻三羈旅歌八首(249~256)と巻十五の異伝(3606~3610)
珠藻苅 敏馬乎過 夏草之 野嶋之埼尓 舟近著奴(③250) |
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一本云 處女乎過而 夏草乃 野嶋我埼尓 伊保里為吾等者 |
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多麻藻可流 乎等女乎須疑弖 奈都久佐能 野嶋我左吉尓 伊保里須和礼波(⑮3606) |
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柿本朝臣人麻呂歌曰 敏馬乎須疑弖 又曰 布祢知可豆伎奴 |
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荒栲 藤江之浦尓 鈴寸釣 白水郎跡香将見 旅去吾乎(③252) |
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一本云 白栲乃 藤江能浦尓 伊射利為流 |
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之路多倍能 藤江能宇良尓 伊射里須流 安麻等也見良武 多妣由久和礼乎(⑮3607) |
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柿本朝臣人麻呂歌曰 安良多倍乃 又曰 須受吉都流 安麻登香見良武 |
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天離 夷之長道従 戀来者 自明門 倭嶋所見〈一本云 家門當見由〉(③255) |
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安麻射可流 比奈乃奈我道乎 孤悲久礼婆 安可思能門欲里 伊敝乃安多里見由(⑮3608) |
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柿本朝臣人麻呂歌曰 夜麻等思麻見由 |
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飼飯海乃 庭好有之 苅薦乃 乱出所見 海人釣船(③256) |
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一本云 武庫乃海 舶尓波有之 伊射里為流 海部乃釣船 浪上従所見 |
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武庫能宇美能 尓波余久安良之 伊射里須流 安麻能都里船 奈美能宇倍由見由(⑮3609) |
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柿本朝臣人麻呂歌曰 氣比乃宇美能 又曰 可里許毛能 美太礼弖出見由 安麻能都里船 |
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イ、東歌の異伝 |
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麻等保久能 久毛為尓見由流 伊毛我敝尓 伊都可伊多良武 安由賣安我古麻(⑭3441) |
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柿本朝臣人麻呂歌集曰 等保久之弖 又曰 安由賣久路古麻 |
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遠有而 雲居尓所見 妹家尓 早将至 歩黒駒(⑦1271) |
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右一首柿本朝臣人麻呂之歌集出 |
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安比見弖波 千等世夜伊奴流 伊奈乎加母 安礼也思加毛布 伎美末知我弖尓〈柿本朝臣人麻呂歌集出也〉(⑭3470) |
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相見者 千歳八去流 否乎鴨 我哉然念 待公難尓(⑪2539) |
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*訓字歌巻の異伝注記は訓字主体で、仮名書き歌巻の異伝注記は仮名書き主体で統一されている。 |
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~それぞれの巻によって、意図的に表記を統一している。巻の編纂方針によって表記体の変換が行われている。 |
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→ウタについては文体と表記体は区別しなければならない。ウタの表記において「倭文体」は成立し得ない。 |
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